〈介護〉 仕事と介護の両立 2018年5月16日

〈介護〉 仕事と介護の両立 2018年5月16日
プロに任せ、家族は愛情を
NPO法人となりのかいご 代表理事 川内潤さん

 突然始まるかもしれない、親の介護。その時、まだ現役で仕事をしている子どもは、どう対応したらいいのか――“介護離職”に陥らないための方法をNPO法人「となりのかいご」代表理事の川内潤さんに聞きました。

自分事と捉える

 「うちの親は元気だから」「親が倒れたらなんて考えるのは不謹慎」と思っている人も多いでしょう。親の介護が突然始まり、私の所に慌てて「どうしたらいいのか?」と尋ねてくる人の代表例を二つ紹介します。
 ①自宅から少し離れた所に住む父は、高血圧だが、母と共に定年後の生活を満喫していた。ところが、突然倒れて救急車で運ばれ、半身まひの状態に。病院からは1カ月ほどでの退院を迫られた。
 ②遠方で1人暮らしの母。半年前の帰省時は元気そうに見え、その後の電話でも「大丈夫」と。ところがある日、実家から数キロ離れた交番から電話が。母が道に迷っていたので保護しているという。
 ――状況の細かな違いはあっても、働きながら親の介護に直面する人の多くは、二つのケースのどちらかに該当するもの。①は脳梗塞や転倒②は認知症が原因です。皆さんならどうしますか。
 これは私がセミナーで出すワークの一部で、万一の時も冷静に判断できるよう、事前に介護を自分事と捉えるのが狙い。介護離職を防ぐには、「親の面倒は自分で見るしかない」と思い込まず、介護サービスを使い積極的に「人に頼ること」を勧めています。
 今や、50代後半では4人に1人が介護に関わっているといわれます。介護離職する人は年間約10万人で、男女比は2対8。介護のために転職した人は年収が4~5割減る、というデータもあります。
 また、介護中の収入は親の年金で賄えても親が亡くなると経済的に困窮し、年齢がネックで再就職もできない人が少なくありません。

人に頼る体制に

 復職に有利な専門的な能力を持つ人ならば、親の介護で一時的に離職するという選択も取りやすいでしょう。
 ただし、最初は簡単な介助でも、徐々に負担が増すのが介護。自分が頑張ればできると離職してスタートすると、苦しくなっても基準がないので人に頼り始めるタイミングがよく分かりません。最初に「仕事は辞めない」と決め、家族が不在でも“介護できる体制づくり”に取り組むことが重要です。
 そもそも、子どもが全て面倒を見てくれる介護は、親にとって“いい介護”なのか。例えば、おむつの交換に手間取ったり、認知症で忘れたのに「さっき〇〇したでしょ」と怒られたりしたら、心地よいサポートとはいえません。介護職が行うような手早く、的確な対応には、それなりのスキルが必要です。
 なお、私たちプロの間でも「自分の親の介護は直接しない方がいい」といわれます。なぜなら元気だった頃の親を知っているから。自分に箸の使い方を教えてくれた親が、今は手づかみでご飯を食べていたら、大抵の子どもは心がかき乱されます。技術があってもできないことがあるのが親の介護なのです。

会社に早く相談

 親は介護してくれる子どもに感謝する一方、本当に望むのは子どもが仕事を頑張っている姿だと思います。働く人の権利として企業に義務付けられた「介護休業」等を上手に取りながら、仕事と介護の両立を目指しましょう。
 自分への評価や仕事への影響を考え、介護のことを会社に言いたくない人は多く、どうしようもない状況になってから打ち明けたり、急に会社を辞めたりする人がいます。早めの相談こそ会社にとってありがたいものです。
 突然のように始まる介護でも、その予兆に早く気付いて備えることが大事です。日頃から①一人でバス・電車・自家用車で出掛けているか②日用品の買い物に出掛けているか③週1回は外出しているか――など、親の様子を確かめておきましょう。
 もし、心配な点があれば、親が住んでいる所の地域包括支援センターに電話を。まだ介護が必要ではなく、予兆の段階でも構いません。地域にある介護サービスを知るいい機会にもなり、将来の仕事と介護の両立に役立ちます。

親子の絆を再び

 介護は、どんなケアを受けるかという“人生の選択”を子どもが親に代わって初めて決めることでもあり、最初はうまくできなくて当然です。
 親の介護というと、食事や入浴などを手伝うイメージを抱く人が多いでしょう。でも私は、親が何を大切にしながら生きてきたのか、その趣味や生き方を知ることで“親子の絆”を再確認する営みが、親の介護だと思います。
 生活に必要な介護はプロに頼み、家族は愛情を注ぐ――親の好きだったことを家族で考えるだけでも、素晴らしいケアにつながるもの。それは介護が同居でも遠距離でも、親を思う“優しさ”に変わりはないと確信しています。

 かわうち・じゅん 1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホームの紹介事業や外資系企業に勤めた後、在宅と施設での介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」を設立。14年にNPO法人化し、代表理事に就任。企業への“介護離職”防止支援を通して、誰もが家族の介護に向き合える社会の実現を目指している。