〈紙上セミナー 生活に生きる仏教〉 ストレスと上手に付き合う2018年5月29日

〈紙上セミナー 生活に生きる仏教〉 ストレスと上手に付き合う 2018年5月29日
無理をせず、睡眠や食事、趣味で解消を
前向きな生き方で前進の追い風に
東京女子医科大学病院 研究技師主任(医学博士) 安尾美年子

 私は40年ほど前から、「臓器移植の適合性」というあまり耳慣れない仕事に携わってきました。今では珍しくない臓器移植という医療が可能になったのは、移植後の拒絶反応が「免疫反応」によるものと分かったからです。
 移植される臓器は、たいていが遺伝子的に自分のものとは違う異物ですから、これを排除しようとして免疫機能が働くのです。
 この拒絶反応を抑えるために免疫を抑制する薬が開発され進歩して、今ではABO式血液型が違っても移植が可能になっています。
 免疫機能は、身体に侵入した病原菌・ウイルスや、体内で発生したがん細胞などを異物として排除し身体を守る仕組みであり、リンパ球を主体とした白血球が担っています。
 臓器移植では免疫を抑制することが重要ですが、日常ではストレスにより免疫力が低下することは、いいことではありません。
 健康には、身体の機能を調節する自律神経の働きが重要です。これには、心身を緊張させ興奮状態に導く交感神経と、心身をリラックスさせて解放状態に導く副交感神経があります。
 強いストレスなどで交感神経がずっと緊張したままでいると、本来はストレスから身体を守るための「ストレスホルモン」(ノルアドレナリン、コルチゾールなど)の分泌が過剰となり、悪循環を起こして免疫力は低下します。
 また、ストレスで腸内の環境が悪くなり腸内細菌が悪玉菌に偏ることも免疫力の低下につながるようです。免疫力が低下することで、風邪や傷などが治りにくくなったり、アレルギーが強くなったり、がんなどのさまざまな病が発症しやすくなったりします。

笑うことで免疫力が向上

 私たちは日常、さまざまなストレスにさらされていますが、ストレスを感じる度合いは人によって違います。ストレスを感じやすい人は、一般的に真面目で責任感が強く、完璧主義で他人の評価を気にし過ぎるようなタイプといわれます。
 真剣に仕事や勉強に取り組んでいるなど緊張状態の時は交感神経が優位に働き、リラックスしている時は副交感神経が優位になります。この両者のバランスが健康には大切です。ですから仕事などでストレスがたまっていると感じたら無理をせず、睡眠、食事、趣味や娯楽などで早めに解消した方がいいでしょう。
 また、「笑いが健康にいい」といわれますが、笑うと脳内からセロトニンという神経伝達物質が出て、これがストレスを軽減し免疫力を高めることにつながるとされます。
 さらに、自分自身のことを理解してくれる人が一人でもいることが、ストレスの軽減になるといわれます。
 日常生活における最も強いストレスとしては、配偶者の死や離婚などが挙げられます。仏法でも愛する者との別れは「愛別離苦」といって、避けられない苦悩の一つとされています。

プラス思考が人生の充実の鍵

 しかし、ストレスといっても、悪いものばかりではありません。適度な緊張感は健康を保つのに必要です。特に自分の夢を実現させるために頑張るとか、信頼する人の期待に応えようとする緊張感は、良いストレスになるようです。
 また、身近な人に対する憎しみや怒りは、その相手が存在する限り続き、不必要なエネルギーを費やして疲れます。そうした場合にも、自分自身の境涯が変革され、受け取り方が変われば、相手を許せるようになることがあります。
 同じストレスでも、感じ方の程度は、受ける人の心、生命力によって変わるのです。
 仏法では「一心の妙用」(御書1336ページなど)という“心の不思議な働き”を説いています。
 マイナスのストレスをプラスに変えられる力が生命には具わっています。困難をも前進の力に変えようとするプラス思考の生き方で、ストレスとうまく付き合い、毎日をより充実させることができるのです。
 とはいっても、過度なストレスを受け続けることはよくありません。大きなストレスにさらされる環境にいる場合には、ストレスを軽減できるような対処、工夫も当然、必要になります。

悩み、苦しみがあるから成長

 自分自身を振り返れば、中学生の時、友人の誘いで創価学会に入会するまでは心身ともに軟弱で、何事にも消極的な子どもでした。入会間もなく創価学会の富士鼓笛隊に入り、音楽を通して人に喜びや勇気を与えることに使命感を抱くようになりました。
 自分の一念が変わることで環境も変わることを学び、真剣な祈りを根本に、さまざまな困難を乗り越えていくうちに、気付けば心身ともに丈夫になっていました。
 そして、社会に貢献し使命を果たせる仕事に就きたいと願い、大学の理学部で学んだ後、理系の就職難にもかかわらず、当時、国内で最先端の腎臓移植を始めた東京女子医大で「組織適合性」や「移植免疫」の研究等の仕事に就くことができました。
 その後、日本でも脳死患者からの臓器提供が可能となり、心臓・肺・膵臓・肝臓の移植も増えました。職場では、国内一多い「適合性検査」に加えて、「日本臓器移植ネットワーク」から依頼される、“脳死・心停止ドナー”からの多臓器移植検査にも、昼夜を問わず対応しています。
 いつ仕事で呼び出されるか分からない生活は、ストレスとなるはずですが、“何があってもベストの仕事を”と祈って取り組むことで毎日が充実しています。学会活動にも積極的に励む中、研究結果を着実に積み上げてくることもできました。
 仏法では「煩悩即菩提」と説きます。煩悩(貪欲・瞋恚・愚癡など)に覆われている凡夫であっても、妙法を信じ実践することで、その生命に仏の覚りの智慧(菩提)が発揮できることをいいます。
 悩みが尽きることはありませんが、悩みがあるからこそ努力し、成長できます。ストレスも同じです。さまざまなストレスを受ける環境にあっても、それを自身の成長への契機と捉えて生命力を強くしていくことができます。そうした経験を繰り返しながら“何があっても大丈夫”と言える境涯を築いていくための原動力こそ、創価学会の信心であると確信します。

 【プロフィル】やすお・みねこ 東京女子医科大学病院研究技師主任として「移植免疫」について研究。医学博士。東京・新宿区在住。1969年(昭和44年)入会。支部副婦人部長。学術部中央幹事。

万人に具わる“仏の生命”

 「成仏」というと、一般には死後に現実世界を離れた浄土に生まれることや、現在の自分と全く異なった特別な存在になることをイメージする人が少なくありません。
 しかし、日蓮大聖人の仏法における成仏は、そうではありません。
 御書には成仏の「成」について、「成は開く義なり」(753ページ)と示されています。成仏とは、自身の内に具わる仏の生命境涯を開くことにほかならないのです。
 “仏の生命境涯を開く”とは、あくまでもこの現実世界において、何ものにも崩されない絶対的な幸福境涯を築くことをいいます。
 自身の生命に絶対的な幸福境涯を確立すれば、さまざまに起こる困難を前にしても、強い生命力で悠々と乗り越えていくことができます。
 さまざまな困難に直面しても退くことのない力強い生命境涯。万人に具わる、この仏の生命を現すことが、日蓮仏法における成仏なのです。