商品やサービスを購入する際に参考となるネットの口コミ情報。
その中に〝やらせ〟があったというニュースが世間を騒がせた。
利害関係者が中立的な消費者を装い、口コミを利用して商品の宣伝を図っていたのだ。
こうした手法は「ステルスマーケティング」、通称「ステマ」と呼ばれている。
この「ステマ」という言葉が、もともとの意味を離れ、ネット上でおかしな使われ方をし始めた。
自分の気にくわないものに対して好意的な意見を表明する人を、「それはステマ」と揶揄して切り捨てるのである。
他者を正当に評価せず、意見を無視したり、単純にひとくくりにしてしまう一部ネットでの〝議論〟。
相手の顔が見えないだけに、エスカレートしがちだ。
「ステマ」のみならず「アンチ」といった言葉が登場すれば最後。
意見の歩み寄りや妥協は放棄され、議論は「炎上」してしまう。
そんな不毛な状況について、評論家の宇野常寛氏は「『敵』と『味方』を徹底して区分する思考」
(『ゼロ年代の想像力』早川書房)と断じる。その裏側にあるのは、「矮小な自意識」という。
本来のコミュニケーションは、哲学者のアルベール・ジャカール氏が言うように「創造性のある驚き」(吉沢弘之訳『世界を知るためのささやかな哲学』徳間書店)に満ちている。
しかし、自分とは異なる他者への恐れや不信に根ざした「矮小な自意識」からは、真実のコミュニケーションは成り立たず、新たな発見や感動は生まれにくい。
「炎上」という現象は、その言葉とは裏腹に、「冷えた心」から発しているのだ。
対極にあるのは、相手の善性や可能性を信じるとの信念に根ざした「対話」であり、顔をつきあわせてのコミュニケーションだ。
池田名誉会長は「『言葉の海』『対話の海』の中でのみ、人間は人間に成ることができる」と述べている。
偏見や憶測を排して真摯に語り合っていくこと。開かれた「温かな心」が脈打つ対話から、新たな価値が生まれる。
また、そうした魂の打ち合いを通して、人間は互いに成長していくのである。私たちの日々の語らいこそ、まさにその実践なのだ。(秀)
(「創価新報」2012年5月16日付11面から転載)