正義58 小説「新・人間革命」27巻

いかに時代は変わろうが、信心ある人には、広宣流布の前進あるところには、必ず魔が競い、難が襲う。
波多光子は、周囲のいかなる仕打ちにも、迫害にも挫けまいとの決意を固めた。
入会した友を、その決意に立たせてこそ、本当の折伏である。
それが、広宣流布の大いなる拡大の原動力になるのだ。
彼女が信心に励めば励むほど、家族は激しく反対するようになり、「おかしな宗教に凝って!」と、学会を目の敵にした。
しかし、波多は負けなかった。
野良作業に出る時、しんぐり籠(竹籠)に外出用の服を入れ、作業が終わると、さっさと着替え、露崎アキと一緒に学会活動に出かけた。
「この信心で、必ずわが家の宿命を転換してみせる! 子どもたちにも信心を教え、幸せにしてみせる!」
彼女は燃えていた。貧困に喘ぎ、汲々として生きてきた自分が、人びとを幸福にするために情熱を燃やしていること自体、不思議な気がするのである。
経済状態は依然として厳しかったが、何かが変わっていった。
いかに周囲が反対しようが、強い確信があり、あふれんばかりの歓喜と希望があるのだ。
「楽して、楽してかなわんわ」
それが、彼女の口癖であった。
子どもたちが育ち、働くようになると、暮らしは楽になっていった。
また、苦労に耐えながらも、明るく、はつらつとした健気な母親の生き方を見て、やがて、子どもたちも、全員、信心に励むようになった。
さらに、家も新築することができたのである。
──その話を聞くと、山本伸一は、娘である本部長のカツ子に言った。
「あなたも、お母さんの信心に反対したんですか」
「はい。後悔しております」
「それなら、お母さんに感謝し、大事に、優しく接していくことですよ。
お母さんは、晩年の今、すべてに勝った。生の晩年に勝利してこそ、人生全体の勝利なんです」