正義

正義59 小説「新・人間革命」27巻

投稿日:2014年3月12日 更新日:

三重研修道場周辺の地域に住む人たちの多くが、波多光子と露崎アキの弘教である。
三沢光也の父も、波多の勧めで入会したという。肝臓と胆嚢を病み、「もう長くはない」と周囲の人たちが噂し合っているなかで、信心を始めたのだ。
そして、法華経に説かれた「更賜寿命」(更に寿命を賜う)の実証を示し、十年も元気に生き抜いたのである。
そうした一つ一つが、波多の信心の支えとなり、確信となった。
何を言われようが、どんな目に遭おうが、自分が弘教した人が、功徳を受け、幸せになっていくことに勝る喜びはなかった。
「折伏ほど、楽しいもんはない。今生最高の思い出や」
たとえ身なりは貧しくとも、喜々として弘教に歩く人には、尊き菩薩の歓喜の生命が脈打ち、金色の仏の輝きがある。
山本伸一は、波多に尋ねた。
「信心をしてきて、いちばん辛かったこと、悔しかったことはなんですか」
彼女は、少し口ごもりながら答えた。
「葬式に、正宗の坊さんが来てくれんだことですわ……」
波多と露崎が弘教した夫妻の夫が、不慮の事故で他界した。
当時、三重県には宗門の寺院はなかったため、波多は、自分の所属支部がある大阪の寺院に電話し、僧侶に葬儀に来てほしいと頼んだ。
しかし、「三重は遠いので、とても行けません」と、そっけなく断られてしまった。何度、懇願してもだめだった。
やむなく、露崎と二人で、葬儀を行うことになった。旧習の深い地域である。
「坊さんは来えへんのやて」
「学会の女二人が坊さんをするんやげな」
隣近所の人たちが、興味津々といった顔で集まってきた。
嘲笑の眼差しを浴びながら、二人は、生命力を振り絞るようにして、朗々と勤行した。
緊張のあまり、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
野辺送りを済ますと、全身から力が抜けていくような気がした。

-正義
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