正義60 小説「新・人間革命」27巻

波多光子は、自分としては、露崎アキと二人で一生懸命に葬儀を執り行ったつもりであった。
しかし、それでも歳月を経るごとに、「本当にあんなんで、よかったんやろうか。
故人の一家に惨めな思いをさせたのではないか」という気持ちが、心の底に、澱のようにたまっていったのである。
山本伸一は、彼女の話を聴き終わると、大きく頷いた。
「おばあちゃんは偉い! 最も清らかで、尊い、真心の葬儀です。それが本当の葬儀です。故人も、最高に喜んでいるでしょう。
あなたは、広宣流布の大功労者です」
そして、同行の幹部らに語った。
「君たちは、大学を出て、若くして幹部になったことで、自分は偉いかのように思ったりしてはいけません。
そんな考えが微塵でもあるなら、既に生命が慢心に毒されている証拠です。
君たちには、地域広布に命をかけてきた、このおばあちゃんのような戦いはできていないではありませんか!
誰が、本当に広宣流布を推進してくださっているのか、創価学会を支えてくださっているのか──私は、じっと見ています。
もしも、要領主義がまかり通り、捨て身になって戦いもせず、人の努力を自分の手柄のように報告だけしている者がリーダーになって君臨していけば、真面目な会員がかわいそうです。そんな創価学会にしてはならない」
厳しい口調であった。
それから伸一は、包み込むような笑みを、波多に向けて言った。
「おばあちゃん、ほかに何かありますか」
瞬間、彼女の表情が曇った。
「先生。実はな、私を折伏してくれた露崎アキさんが、心臓病で入院しとりますんや。
あの人はな、私なんどより、もっともっと信心強盛でな。『先生に会いたい、会いたい』と、いつも言うとりました。
元気なら、今日、一緒に、先生とお会いできましたのにな」
同志を思う謙虚な言葉であった。謙虚さは境涯の高さ、大きさの表れといえよう。