未来に希望を感じられるかどうか─激闘11 小説「新・人間革命」27巻
2014.04.02投稿
製茶販売店から練馬文化会館に移動した山本伸一は、記念植樹や婦人部の合唱団との記念撮影に臨み、さらに、三、四十人の幹部との懇談会に出席した。
草創期に、共に戦った人たちの顔もあった。
「懐かしいね。お元気そうで嬉しい」
伸一が声をかけたのは、かつて彼が支部長代理を務めた文京支部で、一緒に活動に励んだ金田都留子であった。
金田は、満面の笑みで一礼した。
彼女は、一九五三年(昭和二十八年)の五月、伸一が担当していた座談会に、未入会の姉と共に参加し、彼の話を聞いて、入会を決意したのである。
金田の夫は、勤めていた会社が倒産し、さらに結核を患った。
三人の子どものうち、小学一年になる長男は、結核、喘息、大腸カタルにかかり、げっそりと痩せ細っていた。生活は困窮し、治療費はおろか、食費さえもままならぬ暮らしであった。
都留子は、何も希望を見いだすことができず、未来は暗澹としたものにしか思えなかった。
髪を整える気力も失せ、顔色は青白く、笑顔は絶えて久しかった。
「死にたい……」と、ため息交じりに日々を過ごした。
未来に希望を感じられるかどうか──そこに、幸福を推し量る一つの尺度があるといってよい。
未来が闇としか思えぬならば、心は不安に苛まれ、たとえ今、恵まれた環境下にあっても、幸せを感じることはできまい。
都留子が苦悩の渦中にあった時、姉が知人から学会の座談会に誘われた。
姉も戦争で夫を亡くしていたが、妹の方が不幸続きであると不憫に思い、都留子に声をかけたのだ。
「創価学会という宗教の会合があるそうだから、一緒に行ってみない。話を聞いて、もし良さそうだったら、あなたは、やってみたらどうかしら」
二人は、描いてもらった地図を頼りに、座談会場である東京・池袋の染物店を訪ねた。
会場は五十人ほどの人で埋まり、熱気にあふれていた。