「喜びとは、勝利それ自体にではなく、途中の戦い、努力、苦闘の中にある」激闘7 小説「新・人間革命」27巻

 山本伸一は、記者たちに、困難や苦労に立ち向かうことの大切さを語っていった。

 「苦闘は、人間として大成していくうえで、必要不可欠です。それが、いかなる逆境にも負けない雑草のような強さを培っていくからです。ところが近年、青年たちは苦労を避け、悩もうとしない傾向が強くなっています。

 私は、そこに、青年の大成を妨げる、大きな落とし穴があると感じています。

 青年が、自分はどう生きるかを真剣に考え、理想をもって現実に向き合い、人生の一つ一つのテーマを見すえていくならば、さまざまな悩みや葛藤があるものです。仕事一つとっても、向上心や改革の思いが強ければ強いほど、悩みは多いはずです。

 時には、力の限界を感じて、自分を卑下し、絶望することもあるかもしれない。でも、そこから、どう立ち上がって、人生を切り開いていくかが戦いなんです。そのために悩むんです。

 もし、青年が、理想からも、現実からも目を背け、状況に身を委ねて生きるだけなら苦悩は少ないでしょうが、人間としての成長も、精神の錬磨もなくなってしまう。

 結局は無気力、そして刹那主義に陥り、自身の本当の幸福も築けなければ、社会の未来も閉ざされてしまうことになります」

 現代には、地道な努力や苦労を避け、安易によい結果のみを得ようとする風潮が蔓延しつつあることを、伸一は憂慮していた。

 それは、一攫千金を求める生き方へと傾斜していく。その思考は、現世を穢土とあきらめ、現実のなかで粘り強く、努力、挑戦することを放棄し、ただ念仏を称えて、彼方に極楽浄土を求める発想に通じよう。実は、ここに、人間に共通する不幸の“一凶”がある。

 向上、改革の道は、苦悩との格闘である。だが、その日々にこそ、生命の充実と躍動があり、自身の成長という最高の実りがあるのだ。

 ゆえに、ガンジーは訴えている。

 「喜びとは、勝利それ自体にではなく、途中の戦い、努力、苦闘の中にある」(注)

■引用文献

 注 「非暴力」(『マハトマ・ガンジー全集 23巻』所収)インド政府出版局(英語)

[2014年 3月28日]