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第11回 足腰は健康の土台〈危機の時代を生きる――創価学会ドクター部編〉

投稿日:2022年2月19日 更新日:

JCHO仙台病院・病院長 村上栄一さん
 医学では、体内の各器官が互いに連携し、支え合いながら私たちの健康を守っていることが明らかになってきている。まさに調和の世界であり、仏法の“人体は小宇宙”との思想と共鳴する。コロナ禍の中、この人体の調和を保つために、どのような心掛けが大切で、仏法ではどう説いているのか。「危機の時代を生きる――創価学会ドクター部編」の第11回は、JCHO仙台病院の病院長で整形外科専門医の村上栄一さんの「足腰は健康の土台」と題した寄稿を紹介する。

長引く自粛で衰える筋肉と骨
 コロナ禍が続く中、腰の痛みに悩む人が増えています。
 主な原因は、長期間、外出を自粛したことに伴う運動不足と思われます。
  
 運動不足によって、腰を支える腹筋と背筋などの筋力が衰えたことで、腰の安定性が損なわれ、腰への負担が大きくなったのです。
  
 加えて、運動不足は筋肉だけでなく、身体の柱ともいうべき骨にも影響を及ぼしていることが考えられます。
  
 近年、医療の現場では、ベッドの上で安静にし続けていると、骨量低下を引き起こし、「骨粗しょう症」となってしまうことが大きな問題になっています。ある研究では、3週間で7・3%の骨量が低下し、20週間では30~50%もの骨量が低下してしまう、との報告があります。
  
 これは、日々の歩行や運動が、身体を維持するためには欠かせないものであることを示しています。
  

腰痛は人類の宿命
 実は、腰痛は、人類の宿命ともいえるものです。それは、人類が二足直立歩行することと関係します。
  
 二足歩行は、人類にとって革命をもたらしました。両手が自由に使えるようになったことで道具を作り、やがて文字を発明し、言葉も話せるようになったのです。脳の容量が拡大したのが二足歩行の500万年後と推定されていることなどを踏まえれば、人類は、二足歩行をすることによって、チンパンジーなどの類人猿から現在の人間の形に進化したと考えられます。
  
 そもそも、二足歩行は、常にバランスを取らないと、すぐに転んでしまいます。そのため、人間の背骨はS字に曲がり、骨盤は横に大きくなり、類人猿ではほとんど発達していない、お尻の筋肉(大殿筋や中殿筋)なども大きくなって、安定した立位が保てるようになりました。
  
 人間は立っている時には、下肢が真っすぐになり、骨のみで体重を支えることができるので、下肢の筋肉を使わないで、何時間でも立っていられます。立位時のエネルギー消費は、寝ている時に比べて、わずか7%増加するだけといわれています。
  
 一方、四足動物の脚は常に曲がっているため、立位時には、体重を支えるために常に筋肉を使わなければならず、相当のエネルギーを消費します。そうした差が生まれた結果、人間はスピードでは四足動物より劣っても、持久力では勝り、長時間の歩行が可能になりました。
  
 しかし、こうしたメリットばかりではなく、デメリットも生じました。
  
 その一つが腰痛です。
  
 直立姿勢になった結果、体重の60%ほどを占める上半身の重みが、常に腰にかかるようになったからです。
  
 そのため、「椎間板ヘルニア」や「腰部脊柱管狭窄症」などの腰痛が起こるようになりました。
  
 また腰痛は、歩行することとも結び付きがあります。
  
 歩行の際には、必ず、片方の脚で全体重を支えなければなりませんが、この時に最も負荷がかかるのは、骨盤にある「仙腸関節」という部分です。この関節は、上半身と下半身のつなぎ目にあり、上半身の体重を支えつつ、地面からの衝撃を緩和する免震装置のような役目を果たしますが、骨盤を包む大殿筋などが弱くなってしまうと、この部分にかかる力が増大し、関節にズレが生じて腰痛の大きな原因となるのです。
  
 余談ですが、仙腸関節は、もともと動きが小さいため、画像診断などでは異常が分かりにくいものです。しかし、この関節の出す痛みには特徴があり、最も痛む部分を探すと、お尻にある尾てい骨の斜め上であることが多いので、ここに注目すると、見つけることは比較的容易です。
  

四足歩行から二足歩行に進化した人類。それに伴い、腰痛も起こりやすくなった ©altmodern/E+/Getty Images
日々の姿勢や運動不足に注意
 では、腰痛や関節痛を防ぐため、心掛けていけることはないのでしょうか。
  
 一つ目に、すぐにできる対策として考えられるのは、「日々の姿勢」です。
  
 普段から、腰には上半身を支えるために相当の負荷がかかっていますが、姿勢が悪いと、その負荷はさらに増してしまいます。立っている時、座っている時など、できるだけ背中を丸めず、背筋を真っすぐに伸ばし、腰を軽く前に曲げた姿勢を心掛けていただきたいと思います。
  
 特に最近は、在宅勤務をする方も増え、座りっぱなしの生活をする人が多くなりましたが、それでは腰や骨盤への負荷も増大し、血行も悪くなります。長時間座っている人は、糖尿病や心臓発作に2倍かかりやすく、心血管疾患に2・5倍かかりやすいことが分かっている半面、短時間でも立ち上がって身体を動かすことを心掛けるだけで、死亡リスクを軽減できることが明らかになっています。30分に1回は立ち上がるということを実践してみてください。
  

何げない日々の姿勢――その負荷は徐々に腰に蓄積されていく ©SCIEPRO/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Science Photo Library/Getty Images
 また二つ目の対策、これが最重要ですが、「運動」です。
 運動は、筋肉はもちろん、骨も強くします。
  
 骨は“単なるカルシウムの塊”と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、人体の立派な器官の一つです。その中には、新しい骨を作る細胞や古くなった骨を溶かす細胞などがいて、私たちの骨の状態を常にチェックしながら、もろくなった骨を作り替え、常に頑丈な状態に保ってくれています。
  
 この細胞たちの働きで素晴らしい点は、私たちが走ったり、飛び上がったりするたび、骨に伝わってくる振動やひずみをピンポイントでキャッチし、最も修復が必要なところを的確に作り替えてくれるということです。逆に言えば、骨を常に新しい状態に保つためには、私たちは運動を通して、“細胞たちに振動やひずみを感じさせ続けること”が大切ということです。
  
 しかし、いきなりジョギングから始めようとすると、心疾患の発症や膝を痛めるリスクがあるので、歩行から始めていただきたいと思います。
  
 一般的に、理想の歩行数は1日8000~1万歩といわれ、脂肪消費が進むためには「1日20分以上」の歩行が効果的といわれていますが、これより少ないと意味がないということではありませんので、自分のペースで始めることです。最近では、3分の「速歩」と3分の「ゆっくり歩行」を交互に繰り返す「インターバル速歩」なども薦められていますが、そうしたものも取り入れながら、少しずつ挑戦を重ねてみてください。
  
 また、腰痛の大きな原因となる仙腸関節の不具合を自分で調整するのに有効な運動を紹介します。
  
 健康体操として普及している「真向法体操」です。
  
 ①あぐらの姿勢で、両足の底を合わせて前屈
 ②両膝を伸ばし、足首を直角にして前屈
 ③両足を開脚して前屈
 ④正座をして後方へ倒れる
  
 ――この四つで構成され、①~③をゆっくり5回行い、④の体位を1分くらい保ちます。これを朝と入浴後の1日2回、行うことを勧めています。最初は身体が硬いため、うまくできないかもしれませんが、1カ月を目標に頑張ってみてください。
  

歩くことには骨や筋肉を鍛え、心身を若返らせる効果がある ©boonchai wedmakawand/Moment/Getty Images
御書「坐禅の調わざるが故に病む」
 こうした「日々の姿勢」と「運動」が重要であることは、仏典でも指摘されています。
  
 日蓮大聖人は、御書の中で天台大師が記した「摩訶止観」の一節を引用し、「坐禅の調わざるが故に病む」(新1359・全1009)と仰せです。「坐禅の調わざる」とは、一般的には姿勢のゆがみや運動不足、睡眠不足などを指しており、摩訶止観の中には、“壁や柱などに、もたれかかることは、背骨や関節の痛みにつながる”という具体的な記述も見られます。
  
 また、「天台小止観」には“火大の乱れによって関節が痛む”とも記されています。
  
 「火大」とは「熱」のことで、「四大」の一つです。インドでは古来、人間の身体や自然を含め、この大宇宙の全てが「地」「水」「火」「風」という四つの要素で形づくられていると考えられていました。
  
 その一つである、火大が乱れる。これは身体でいえば、体温の変動などが影響して関節痛になるということです。
  
 周囲の寒暖差による体温の変化によって、節々が痛むということは、現代医学でも言われていることです。だからこそ、患部を温めたり、冷やしたりするのですが、こうした指摘があることも、興味深い点ではないでしょうか。
  

人体は調和の世界
 さて、大聖人が「詮ずるところ、万法は己心に収まって一塵もかけず、九山八海も我が身に備わって日月・衆星も己心にあり」(新1947・全1473)と仰せの通り、太陽も月も星々も、森羅万象の働きの一切が人間生命の中に備わっており、いわば“人体は小宇宙である”と、仏法では教えています。
  
 近年、医学分野の研究でも、互いに影響しながら調和しているこの大宇宙と同じように、私たちの体内でも臓器間や細胞間でさまざまな情報をやりとりしながら、調和を保っていることが明らかになってきています。
  
 それは、骨や筋肉も例外ではありません。
  
 かつて、骨の主な役割は、単に“身体を支えるため”だと思われていましたが、骨も全身の器官とやりとりしながら、人体の健康を保つための重要な役割を果たしていることが分かってきました。
  
 例えば、骨にいる細胞たちから発せられるホルモン物質です。その物質は、血管を通して全身に届けられますが、脳に届くと記憶力をアップさせたり、筋肉に届くと疲れにくくさせたり、免疫細胞に届くと働きが活発になって、さまざまな外敵から守ってくれたりと、身体全体を“若返らせる”効果があることが明らかになってきたのです。
  
 つまり、「骨は人体の若さをつかさどっている」ということです。
  
 先ほど、骨の細胞たちが骨を活発に作り替えるポイントが運動であることを述べましたが、そうしたホルモン物質が発せられるのも、やはり運動と深く結び付いていることが分かってきています。
  
 一方、筋肉の役割も重要です。それは、筋肉から発せられるホルモン物質の中に、心の安定に深く結び付くものがあることです。
  
 現在、新型コロナの影響で自粛生活が強いられる中、うつ症状の方が増えていることが指摘されています。その原因として、“人に会えない”という寂しさが影響していることが考えられますが、運動不足によって筋肉で作られる物質が低下してしまったことも、心に影響を与えている一因ではないかと指摘する研究者もいるのです。
  
 このようにして見ると、日々の運動の積み重ねが、いかに心身の健康と深く関係しているかが理解できるのではないでしょうか。
  

仏法の実践で心身は健やか
 私たちの身体を支える骨や筋肉は、二足歩行になったことで発達してきたものです。そしてまた、人類は、歩くことで身体全体が活性化するように進化してきました。つまり、歩くということは、健康を維持する上での土台となるのはもちろんのこと、人間が人間として生きていくために不可欠なものなのです。
  
 この歩くということについて、古代インド医学でも“食後における100歩の散歩は、延寿の力あり”等と重視されていました。
  
 その上で私は、釈尊が古代インド医学の流れを踏まえつつ、「経行」、つまり、“歩くことが仏道修行である”と教えていた点が重要だと思っています。
  
 事実、釈尊はインド各地を弘教に歩き、大聖人もまた各地を歩きに歩いて法を弘め、門下の激励に徹し抜かれました。御書に「日本国を日蓮経行して南無妙法蓮華経と弘通する」(新1134・全816)とある通りです。
  
 歩けば歩いた分、心身は健やかになります。加えて、語れば語った分だけ、生命の充実感も得られるのではないでしょうか。この仏法の実践こそ、最高の健康法であると確信します。
  

友のために足を運ぶ
 御義口伝には「足は経なり」(新997・全716)とあります。
  
 法のため、友のために自らが動き、足を運ぶ。その行動の中に、仏法の精神は脈打っていくということです。
  
 伝統の2月から福光と師弟誓願の3月へ、感染対策には十分に留意しつつ、広布に生きる誇りに燃え、同志と共に地域に希望を大きく広げていきたいと決意しています。
  

〈プロフィル〉
 むらかみ・えいいち 1954年生まれ。医学博士。東北大学医学部臨床教授などを歴任。日本腰痛学会評議員。骨盤の一部の「仙腸関節」の痛みを長年研究し、2009年に日本仙腸関節研究会を設立。日本仙腸関節研究会代表幹事。国際仙腸関節研究所所長。著書に『仙腸関節の痛み――診断のつかない腰痛』(南江堂)、『Sacroiliac Joint Disorder』(Springer社)。創価学会東北ドクター部長。副総県長。

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