腸閉塞(イレウス)は、さまざまな原因によって腸の流れが閉塞または滞った状態です。この病気について、東京女子医科大学・第二外科学教室の板橋道朗准教授(下部消化管外科)に聞きました。
[colored_box color=”gray” corner=”r”]原因 最も多いのは腸内の癒着[/colored_box]
食べ物や消化液の流れが、小腸や大腸で滞った状態が腸閉塞です。「閉塞」といっても、全く流れない状態だけではなく、流れが悪くなった状態も含んでいます。
原因には、①物理的に腸が詰まる②腸の動きが悪くなる――などが考えられます。
①では、手術後の癒着や腸の内容物によるもの、大腸がん、鼠形ヘルニア嵌頓(はまり込んだ状態)、便秘など、さまざまな病気によるものがあります。
最も多いのは、癒着によるものです。癒着とは、腹腔内の炎症などが起きた結果として、本来離れているべき部位がくっついてしまうことです。腸と腹壁、腸同士などで癒着が起こり、腸閉塞になることがあります。
腹部を切る開腹手術を受けたことのある人は、多かれ少なかれ周辺で癒着が起きますので、注意が必要です。
腹腔鏡手術の技術や器具の向上、癒着防止剤の発達などによって、以前に比べて癒着自体は減ったり小さくなったりしているものの、腸閉塞の原因としては手術後の癒着によるものが、現在も一番多くなっています。
癒着性の場合、腸閉塞を繰り返す人が多い傾向にありますが、程度には大きな個人差があります。
まれに、内科治療では軽快せず手術が必要となることもあります(腸捻転)。
②は、何らかの原因によって腸の動きや流れが悪くなることから起こります。
ノロウイルス等の感染性胃腸炎による炎症など、おなかの中に炎症が起きている状態や開腹手術後には、まひ性の腸閉塞になることもあります(腸は、触られると動きが鈍くなることがあるため)。
[colored_box color=”gray” corner=”r”]症状 3~5分間隔で強い腹痛[/colored_box]
前述のように腸閉塞の原因はさまざまですが、自覚症状は共通しています。腹痛、便が出ない、おなかが張る、吐き気、嘔吐などです。
腹痛では、痛み方に特徴があります。キリキリとした強い痛みが出ますが、しばらくすると痛みが和らぎます。これが、3~5分くらいの間隔で起きるのです(疝痛発作)。
どの辺りの部位が痛むかはさまざまですが、我慢し過ぎて悪化してしまう人もいるので、2、3時間を経過しても痛みが続くようであれば病院へ行った方がよいでしょう。
嘔吐の吐物は、はじめは胃液(白色または透明、酸っぱい)や胆汁(黄色、苦い)で、進行すると腸の内容物(下痢便のような色合い、便臭を伴う)が出てくることもあります。
まれに腸管壊死が起き、命に関わることも考えられます。これは、腸に酸素や栄養分を送る血管が入った膜(腸間膜)が圧迫されたり、ねじれたりして血流障害を起こした場合で、絞扼性腸閉塞と呼ばれます。
[colored_box color=”gray” corner=”r”]治療 腸へ管を通してくみ上げ[/colored_box]
治療は、まず口からは食事も水分も取らずに腸を安静にします。安静にする期間は、原因や程度によりますが、例えば感染性胃腸炎が原因の時は、通常1、2日程度です。
なかなか軽快しない場合や高齢者では、点滴で水分と栄養を補給して様子を見ます。病状が進行していて腸の張りが強い場合は、イレウス管という管を鼻から挿入し、胃を越えて腸まで通し、症状の元となっている腸液や内容物を吸引し、体外にくみ上げます。
これによって小腸の腫れが引き、腸閉塞が治る場合があります。イレウス管を用いる治療は、短くても1、2日、長い場合は5、6日入れっぱなしにして絶飲・絶食になります。
癒着をはがす手術は、おなかを切ることで新しい癒着を作ることになり腸閉塞のリスクを増やすため、なるべく避けるようにします。しかし絞扼性腸閉塞の場合や、保存的治療を1週間以上続けてもよくならない場合、何度も腸閉塞を繰り返す場合などには手術を検討します。
また、がんなど、他の病気が原因であれば、それらの治療を進めます。
頻繁に腸閉塞を起こす人には、「大建中湯」という漢方薬が予防効果を発揮することがあります。かかりつけの医師に相談してみてください。
[colored_box color=”gray” corner=”r”]予防「腸の動き」をよくする[/colored_box]
腸閉塞を予防する決定的な方法はありませんが、あえていえば、「腸の動きをよくする」ことによって、リスクを減らせる可能性があります。
そのためのアドバイスとして、次の3点を挙げます。
①日ごろの運動
「歩く」ことをはじめ、体を動かす習慣をつけましょう。ゆっくりとした動きで構いません。
②繊維質の多い食べ物は適度に
食事で大切なのは、「規則正しく、バランスが取れている」ことです。
食物繊維の摂取についても、少な過ぎてもよくありませんが、腸閉塞を繰り返す方には取り過ぎもお勧めできません。
糸コンニャク、モヤシ、キノコ、海草類など食物繊維の多い食材は「適度に」、そして「よくかんで」食べるようにしましょう。細かく刻んで食べるのもよいでしょう。
③おなかを冷やさない
おなか(腸)を温めるために特別な努力をする必要はありませんが、冷えるのもよくありません。あまり冷えることのないよう、気を付けてください。
【聖教新聞2014年3月7日掲載】